今春北海道新幹線を華々しく開業させたJR北海道ですがその経営は苦しく、不採算路線
の廃止や沿線自治体から資金援助をめぐる北海道との協議が間もなく始まる予定です。
だから今のうちに乗っておけ、というわけではありませんが、廃止が決まった途端賑わい
だす「さよならフィーバー」は正直ウンザリですので、鉄道が日常の中を普通に走っている
ところを旅したいと思います。今回は長万部から小樽経て札幌まで、俗に山線と呼ばれる
函館本線を訪ねてみましょう。

函館本線は函館から旭川まで423.1kmの長大路線ですが、特急列車は長万部から通称海線
と呼ばれる室蘭本線・千歳線を経由して札幌を目指します。距離は山線の方が短いのですが、
曲線や勾配区間が多く高速運転に適していないことから現在は普通列車だけ(臨時特急は
たまに走りますが)が運行される完全なローカル線となってしまいました。

長万部駅には国鉄時代広大な操車場があり、函館・室蘭両本線の結節点として重要な役割を
担っていました。現在はガランとした広い構内が時の移り変わりを感じさせています。
ここではカニめしが有名ですがホームで駅弁売りから買うことはもうできません。

車両はすべて気動車つまりジーゼルカーとなります。今の日本では鉄道車両は何でも「電車」
と呼ぶのがあたりまえになりつつありますが、ジーゼルカーは電車ではありません。ジーゼル
エンジンという重油を燃やして動力を生み出す内燃機関です。見た目の違いはパンタグラフが
ないこと。架線が張られていないこと、そして重油を燃やすので煙を吐きますし、唸るような
動力サウンドが特徴です。つまりウルサイのです。この路線ではキハ40型という少し古い車体と、
キハ150型という新しい車両が混在していて、1輛か2輛編成で運転されています。

長万部から三つ目の黒松内はぶな林の北限として知られ、町がフットパスの整備に力を
注いだため、年間を通じてウォーカーたちが訪れるフットパスの町になりました。
次の熱郛駅を過ぎると列車は目名峠への登り勾配にさしかかり、ジーゼル排気音をうならせ
ながら力走します。ピークを越え下り坂になるとやがて蘭越となり、さらにニセコエリア
である昆布、ニセコ、比羅夫、倶知安と続きます。天候が良ければ車窓右側に羊蹄山、左側
にはニセコアンヌプリなどのニセコ連山が手に取るように見えます。ニセコ地区は近年外国人
富裕層から注目を浴びる高原リゾートとして不動産価値が急騰しているようです。もともと
スキーだけの冬の観光地でしたが、現在は冬はスキー、スノボ、夏にはゴルフ、テニス、
乗馬、ラフティングなど年間を通じて賑わうスポーツリゾートとなりました。倶知安を出て
次の小沢を過ぎると今度は稲穂峠の勾配区間となり、下ると仁木、余市となります。
仁木には果樹園が多くあり、春から秋までいろいろな種類の果物狩りを楽しむことができます。
余市はNHK朝ドラの『マッさん』に登場したニッカウイスキー余市工場で有名ですが、
近年いくつかのワイナリーが創設され、意欲的なオーナーたちの努力によって、この北国
にふさわしいワインが醸造されるようになりました。余市を過ぎると、左側の車窓には
雄大な日本海が広がります。小樽から先は複線電化区間となり、車両も電車がメインに
なって札幌への通勤区間としての色彩がつよくなります。